色の勉強の余談集


「色彩を勉強するには、どうしたらいいんでしょうか?」という質問がよくありますので、そのポイントやウラ話をつづってみました。この項では、テキスト類にあまり書いていないことについて自分の感じることを触れたいと思います。書いてあることは本の方がいいですからね。

1.色彩とは何か?

 色彩は、人間が居て始めて成立します。これが第1でしょう。色彩は、光の性質による物理的な現象と、人の視感覚との心理的(生理的)な性質との2者が組み合わされた世界です。色彩は「精神物理的」なものだとか、「心理物理的」なものだ、という言われ方をします。これは、精神的、心理的な現象である「感覚」と、光による物理的な現象とが組み合わされているという事を言っているのです。

 そこで、色を学ぶときには、物理的な物である「光」の性質を知ることと、人の生理、感覚的なことを知ること、この2つを網羅することが色彩テキストの最もオーソドックスなアプローチの仕方になっているのです。ですから、勉強をする上で、物理的なことを学んでいるのか、心理的(生理的、または感覚的)な事を学んでいるのか、自分で意識しながら勉強を進めましょう。

 光、目、物 −−− このどれが変わっても「色彩」は変化します。つまり、色彩とは、光の性質であり、また視感覚の性質であり、物の性質でもある、ということができます。


A.物理的なものを学ぶ。

1.だから「光」を学ぶ

 そこで、第1によく取り上げられるのが「光」となります。この光というのは物理的な現象なので、物理関係の基礎知識が求められてきます。これが難しい、そこで「色は嫌いだ」なんて人が出てきます。物事は、ガマンが必要なことだってあるじゃないの、というわけで、これは勉強上で避けて通ると、後で泣きます。まあ、ガマンしましょう。

 ポイントとしては、光の性質を学ぶことにつきます。が、皆さんが学ぶのは「色」に関わる部分ですから、最も重要なのは、光の分光分布と色の見え(どんな色になるか)の関係を学ぶことです。

実際の生活場面では、白熱電球と蛍光灯が多いですよね。どんな風に色が違って見えるかを観察して歩きましょう。それには、下ではなく、上、つまり光を見て歩く習慣をつける必要があります。


<余談>

 光は粒子的な性質と波の性質を持っている。これは、粒子や波と同じような現象を示すところから導かれたものです。

 反射、屈折、回折、干渉、波長、伝播(伝わり方)、振動数、強さ、などが出てくるのはそのためです。光は電磁波と同じ性質を持ちます。波には大きく分けて「縦波」と「横波」があり、音波は「縦波」、光や電波は「横波」になります。光の進む速度は、1秒間に30万キロメートル。1秒で地球を7周半できる速さです。これを光速といいますよね。

 鉄のような物質に熱を加えると、温度が上がるにつれて、やがて熱と光を発します。これを熱放射といったり、温度放射と言ったりします。これはどっちの言葉でもいいのです。要は「温度と光」は密接に関係している、と覚えましょう。

 で、世の中にはさまざまな物質がありますが、その物質に熱を加えていくと、あるものは融け、あるものは燃え、あるものは蒸発したりしてしまいます。どんなに温度が上がっても、こうした現象を起こさない物質というのは実在しないのですが、熱を発するものの中で、その物質の持つ熱のエネルギーをもっとも大きく出す理想的な物質を「完全放射体」といったり「黒体」といったりします。まあ、「何度になっても全く融けたり蒸発したりしない、この世にはない物質」とでもしておけばいいでしょう。で、その物質の温度と、そこから出てくる光のエネルギーとが密接に関係していて、ある温度だと、その温度に応じた光エネルギーが発されます。ある光エネルギーのときの温度を「色温度」と言います。

 ある光があって、その光の分光分布と、黒体のエネルギー放射による光の分光分布の2つを比べます。で、全く同じ形になるときを「分布温度が一致している」といいます。形は違うけど、色あいが同じ場合には「色温度が一致としている」と言います。色あいが近似している場合を「相関色温度が一致」している、と言います。で、この場合の温度は「絶対温度」というものを用います。絶対温度は、全く熱エネルギーが存在しない温度を0度とします。摂氏に換算すると、マイナス273.16(文献によっては−273.15)度です。ですから、摂氏0度は、絶対温度273.16度(これは273.16Kと書く)となります。


3.色の伝達

 色を客観的に伝える手段は、工業的に実用化されているものが多々あります。日本では工業的標準化を図るJISについては必須ですね。JISでの色のシステムでは、色名、三属性、三色型の表色系がありますよね。系統色名、慣用色名、マンセルシステム、XYZシステム、Labシステムなど。オストワルトやNCSやDINはJISには入ってません。

4.混色

 工業的という視点で重要な項目には、混色もあります。加法混色(同時、継時、並置)、減法混色はつとに有名。これら2種の混色の色の関係(加法混色と減法混色の原色同士は物理補色となっている)もポイントです。


B.心理的なこと

1.目を学ぶ

 目については、目の構造、もっと重要なのは視細胞の性質です。視細胞の種類と働き、その分布、視細胞の別による色の見えがもっとも重要。だって、「色」の話だから。

2.色の見え方

 物理的には同じ色なのに、周囲の色的環境によって違う色に見えるという現象があるますよね。これは、

明るさの恒常、色彩の恒常、明暗順応、色順応、プルキニエ(プルキンエでもいい)現象、色彩対比といったところです。また、進出・後退、膨張・収縮、視認性、誘目性、面積効果、同化現象も。

 ちょっと難しくなると、ヘルムホルツ−コールラウシュ効果、アブニー効果、ベゾルト−ブリュッケ効果、ハント効果、ヘルソン−ジャッド効果、スタイルズ−クロフォード効果などが挙ってきます。

 名前を覚えるという、ちょっと悲しいな学び方ではなく、実際の見え方を自習すると理解が深まるでしょう。

3.色の感情効果

 感情効果は極めて主観的なものなので、感じ方に個人差があります。個人差を排除したものが、テキスト類によく取り上げられるものです。特に、寒暖感等の感情効果は、SD法という調査を用いて、実験をした結果に基づいたものですが、なかなか「こうだ」といいきれるものではありません。文献によって微妙に違うものが多くなってしまうのは当然なのです。ですから、本来これらの感情効果は、一種の指針みたいなもので、絶対性を求められるものではありません。で、SD法で色の性質を調査すると、色は動きを感じさせる、色は温度感などの潜在的な性質を感じさせる、色は好き嫌いの評価がついて回るといった3つの性質がよく抽出されてきます。このうち、テキスト類では、色の評価以外のものが取り上げられるのが常です。なぜなら、色の評価は個人差が大きいからです。

4.配色調和論

 調和論では、オストワルトとムーン・スペンサーがよく取り上げられますが、これは、オストワルト表色系とマンセル表色系が有名ですから、それらを使った理論ということでよく引き合いに出されるわけです。配色調和論は、純粋に色彩を取り扱っているので、実際のデザイン現場での色彩調和とは多いに異なることを念頭に置かねばなりません。デザイン現場での調和は、常にその時代の人々の評価にさらされており、調和論のように固定的な理論では新鮮なクリエーションはできなくなってしまいます。色彩のみの調和に対する普遍性に焦点を当てたものだと割り切っておく必要があります。新たな調和はいつも破壊から生じるものですものね。パーソナルカラーをやっている人は感じるでしょうが、人の顔色を測色学的に分類すると、大いに矛盾が生じます。顔の形、そのひとの性格など総合的な判断をしながらやっているんじゃないでしょうか。それが現実というものです。

 検定試験の中では、PCCSを開発した日本色彩研究所の成果に基づいた考え方がよく出てきます。24色相での同一、隣接、類似、中差、対照(補色)など。これらの定義は研究した人たちが英文を翻訳するさいに付けたものですが、最も多く出る言葉でしょう。その他、ヨハネス・イッテン、シュブルール、ゲーテ、ジャッドなどの論も。


<余談>

 調和論は、欧米的な美観の中で語られています。ですから東洋的な美観は入っていません。調和領域として、同一、類似、対照とされるのは、西欧流美観の反映と言えます。つまり、統一されているか、対比されているかといった二者択一的な見方です。同一および類似が統一系の美観で、対照は対比系の美観です。隣接や中差、つまり曖昧な調和をよしとする日本的あるいは東洋的な美観は彼らの意識にはなじまないことが分かります。わび、さび、しぶい、といった美観は、今ようやく認知されようとしています。これらはキリスト教的な世界観から来ているのかも知れません。つまり、一点からの光によって生じる明暗、その光の流れの中にある色の調和、もしくは、規則的に反対に位置するものの補完関係を重視する哲学と言えるでしょう。

 思うに、日本の美観では、光はあまねく四方からやってきます。物のウラに回れば、そのウラの世界における光を全体世界の光に変更してしまいます。したがって、赤いものはあくまでも赤く、表の明るい光の世界の赤であろうと、ウラの暗い世界の赤であろうと、赤は赤なのです。色は平均に彩色され、例えばリンゴは赤く平均に彩色されていきます。同一色相の濃淡という考え方ではなく、色を帯びたモノとモノ同士の並びを素直に、直裁に記述する美観です。今、あなたが見ている、その刹那の世界。それがあくまでも色の全体世界となるのです。ここでは、他の世界の光は考慮していません。

 これは、言葉の構造も同じですよね。日本語では、「あれは、5年前のことだった。5年前の2月1日のニューヨーク。私は5番街にいる。」という風に、いったん別の世界に足を運べば、あとはそれが過去だろうと未来だろうとその時間的な記述は現在とは切り離され、関係がなくなります。これに対し、例えば英語ではこうはいきません。「It happened 5 years ago. The day was 1st. Feb. in NY 5 years ago from now. I was at 5th. ave. in NY.」などと、あくまでも「現在」という一点を時間の起点として物事の時間的な前後関係を正確に指定しなければなりません。そのために、現在、未来、未来完了、現在完了、過去、過去完了などなど多様な時間的表現方法が発達しています。こうした厳密な記述は1点の光から発せられる色の中に見られる色彩調和の考え方とそっくりです。

 ところで、配色用語では、実際に英語圏の人に通じないものもあります。ですから、これらは日本国内の業界用語的に扱われていると思った方がケガがありません。通じるものでは(カッコ内は彼らの解釈)、カマイユ(同系色濃淡)、フォカマイユ(曖昧、異なる色相も入った濃淡)、トーン・オン・トーン(違うトーンの色の配色)、グラデーションなど。トーン・イン・トーンは殆ど聞かれません、ドミナントは通じますが、その場合は、カラードミナントなどと言った方が良い。トーンという言葉はほとんど使われません。ダークトーンであれば、ダークトーナリティといった言い方で通じます。トーンではなく「シェイド」の方が一般的に使われます。「チント: tint」あるいは「レベル:level」でもOK。「トーナルコンビネーション」と言った言い方では、濁色トーンの配色という意味では受け取られません。単に同系トーンの配色といった受け止めかたになります。これらは、より厳密にトーン名をつけて言わないと通じません。これらは私の狭い経験からなので、異論があるかもしれませんが・・・