オストワルト・システム


ドイツの化学者オストワルト(Wilhelm Ostwald 1853-1932)が1923年に創案したシステムです。1923年ということは、彼が70歳ということです。すごい好奇心と気力だと言わざるを得ません。彼は1909年にノーベル化学賞を受賞している大学者ですが、晩年に色彩に興味を抱き、このシステムを創案したと言われています。

(1)オストワルトの色方程式
オストワルトは、すべての色は、純色、白色、黒色の和からなる、と定義し、次の式を定めました。これをオストワルトの色方程式といいます。

C+B+W=100(%)
なお、ここではCを純色量、Bを黒色量、Wを白色量とします。

(2)オストワルトの無彩色段階
オストワルトシステムはカラーを色相、白色量、黒色量で表記します。マンセルシステムのような、明度、彩度という考え方ではありません。
まず、無彩色の段階ですが、無彩色は純色は含まれませんから、常にW+B=100となる段階ということになりますね。
オストワルトは、光を100%反射する理想的な白(完全白)と光を100%吸収する理想的な黒(完全黒)との間に、現実的な白から黒まで8段階を設定しています。
この8段階の表記にはアルファベットが使用されています。それは、a,c,e,g,i,l,n,pの8つです。これは、英文字26文字から見分けの紛らわしいiとjのうちのjを除き、25文字とした上で、aから1つおきに採ったものです。
なぜそうしたのかは、勉強不足で分かりませんが、ひょっとするとさらに細かい段階を設定するための余裕を持たせたのかもしれません。だれか教えてください。
以下に、8つの記号とその記号に対応する白色量、黒色量を示します。

    記号と白色量、黒色量の対応

  記号  白色量   黒色量
   a       89.13       11.87
   c       56.23       43.77
   e       35.48       64.52
   g       22.39       77.61
   i       14.13       85.87
   l        8.91       91.09
   n        5.62       94.38
   p        3.55       96.45

この数値の変化量は、ウェーバー・フェヒナーの法則「感覚量が等差級数的に変化するとき、物理量は等比級数的な変化となる」という考えに基づいて白、黒量を採ったものです。これは言いかえれば、「見た目に同じような差を持った色の段階に見えるとき、その白量(または黒量)は、ある量に一定の率を乗じた変化となる」ということになります。具体的には、例えば白量の対数(log)を採り、各記号段階の対数同士を比べると等しい変化量となっています。

(3)オストワルト色相
オストワルトの色相は、ヘリング(K.Hering)の反対色説に基づいて、有彩色の反対色(補色)の対を最も基本的な色相として設定しています。
左図がオストワルトの色相環です。図中の最も大きな黒丸の位置が、ヘリングの心理四原色の位置で、黄と青、赤と緑とを直行するように配置しています。これら四原色の中間色相(図中の小さい黒丸の位置)をとり、8色相とした上で、これら8色相の両側にさらに中間色相(図中の四角印の位置)を加え、合計24色相としています。これら24色相は、三色ずつ図の線分で仕切られたエリアに分けられています。色相環の上方を黄として、オレンジ、赤、紫・・・と色相が一巡するように配置されてます。
色相名は、以下の8つです。この色名を略号化し、色相表示にも使用します。

イエロー・・・・・・・・Yellow(Y)
オレンジ・・・・・・・・Orange(O)
レッド・・・・・・・・・Red(R)
パープル・・・・・・・・Purple(P)
ウルトラマリンブルー・・Ultra−marine Blue(UB)
ターコイズ・・・・・・・Turquoise(T)
シーグリーン・・・・・・Sea Green(SG)
リーフグリーン・・・・・Leaf Green(LG)

(4)オストワルトの等色相三角形
 オストワルトシステムでは、1つの色相を下図のような桝目に分割し、正三角形状に展開しています。この三角形を等色相三角形といいます。
桝目のそれぞれは、図中の記号に相当する白量と黒量を含んだ色が配置されます。例えば、記号caで表される色は、(2)で一覧に示した白量と黒量が含まれるのですが、記号の最初の「c」は白量を、「a」が黒量となります。つまり、2つ並び記号の最初が白量、次が黒量となります。このような三角形が24の色相について、それぞれ連続的に展開される、ということになります。図中のWは完全白、Bが完全黒、Cが純色(完全色)で、それらに囲まれた内側に図のような色が展開されるわけです。
オストワルトの色方程式は、W+B+C=100ですね。
ということは、例えば、図のpaの位置にある鮮やかな色の純色量はいったいどれくらいになるのでしょうか。計算してみましょう。

記号paの「p」が白量です。(2)の表から、記号pで示される場合の白量は3.6(小数点第1位までとしました)です。
次に、記号「a」は黒量ですから、やはり同じように(2)の表から「a」の今度は黒量を調べると11.9となりますね。ですから、 paの白量と黒量とを加えると、3.6+11.9=15.5となります。
W+B+C=100の式から、記号paの色の純色量Cは、100−15.5=84.5となります。

オストワルトの色系列 オストワルトシステムでは、この三角形の色の並びに対し「色系列」と呼ばれる4種類のものがあります。
(a)等白系列
白量が等しい色の並びのことで、配色上でも調和が得られる色です。図中の記号の最初の記号が等しい色の並びのことで、辺BCに平行な位置の並びです。
(b)等黒系列
黒量が等しい色の並びです。やはり配色上で調和が得られます。図中記号の2番目の記号が等しい色の並びで、辺WCに平行な位置の並びです。
(c)等純系列
オストワルト純度といわれる純色の純度が等しい色の系列です。これは、純色量Cと白色量Wとの比であるC/Wが等しい色のことです。図では、白−黒の並び(辺WB)と平行な位置に縦に並ぶ色の系列を指します。この系列の色同士も良い調和が得られます。
(d)等価値系列
24種類の色相について、図のような三角形があるわけですが、その三角形の中の色の位置が同じ色の並びを指します。つまり、色相は異なるが、白量、黒量、純色量のすべてが等しい色相違いの色の並びを指します。これも配色調和が得やすい色とされています。

(5)オストワルト・システムでの色の表記
オストワルトシステムの色表記は、色相記号、白量、黒量をならべて書きます。
色相は、色相図に示した番号で示します。つまり、やや緑みの黄は色相記号1、赤は8となります。
または、それぞれの色相略号を使用してもOKです。この場合は、番号と色相記号を併記するのですが、番号は1、2、3しか使いません。つまり、やや緑みの黄は1Y、黄は2Y、ややオレンジみの黄が3Y。次のやや黄みのオレンジは、1O(読みは1オウ)と、色相記号が変わるたびに番号が1に戻ります。したがって、
黄・・・・2または2Y
赤・・・・8または2R
青・・・・14または2UB
となります。
こうした色相記号にca、paといった白量、黒量の記号をつけて表します。
鮮やかな赤・・・8paまたは2Rpa
明るい青・・・・14gaまたは2UBga
などとなります。
なお、無彩色は、白がa、黒がnなど、記号1種類だけでOKです。この場合は、無彩色の白量のみを表記したということです。


サイトへのご希望にあったので、オストワルトについて簡単に説明してきましたが、少し難しかったかもしれませんね。(私も説明が難しかったです実際のところ)実は、オストワルトは、色の反射特性が理想的な色に基づいて体系化しているため、そのような色票は作ることができません。しかし、反射特性が理想的でなくとも、見た目に同じ色に見えるものは作れます。
それを実用化したものが「カラーハーモニーマニュアル」といわれるものです。これは、1940〜50年代にアメリカや日本で「色彩調節」という、今で言うカラーコーディネーションが盛んになりだした頃に出版され、当時はよく使われたようですが、現在では全くといっていいほど使われていません。(というよりも手に入らない、簡易版のようなものはありますが)
オストワルトシステムでは、明度による色彩の調整ができなかったり、オストワルトシステムに収まらない新たな色の位置づけができなかったりする部分があります。調和という点では、いかにもドイツらしいカラーのロジックを駆使したものであり、その点が現在でも「システムの考え方」として残っているゆえんなのでしょう。

 


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